雪が降る場所で車中泊をするとき、「寒いからエンジンをかけっぱなしにして暖房を使いたい」と考える方もいるでしょう。
しかし、積雪中にエンジンをかけたまま眠るのは、一酸化炭素中毒につながる危険な行為です。特にマフラー周辺が雪でふさがれると、排気ガスが車体の下にたまり、車内へ入り込むおそれがあります。
窓を少し開けたり、エアコンを内気循環にしたりしても安全とは限りません。この記事では、雪の日の車中泊でエンジンをかけっぱなしにする危険性と、立ち往生した場合を含めた安全対策を分かりやすく解説します。
雪が降っている場所では、就寝中のエンジンかけっぱなしは避けるのが基本です。積雪によってマフラーがふさがれると、一酸化炭素中毒が短時間で進む可能性があります。窓開けだけを安全対策として考えないことも重要です。
雪の車中泊でエンジンかけっぱなしが危険な最大の理由
雪の車中泊で特に警戒したいのが、排気ガスによる一酸化炭素中毒です。
駐車したときにはマフラー周辺に雪がなくても、就寝中に降雪が続けば状況は変わります。気付かないうちに車の周囲へ雪が積もり、排気ガスの出口がふさがれる可能性があるためです。
雪でマフラーがふさがれると排気ガスが車内へ入ることがある
通常、エンジンから発生した排気ガスはマフラーから車外へ排出されます。
ところが、大雪によってマフラー周辺が雪で囲まれると、排気ガスが正常に外へ逃げにくくなります。車体の下などにたまった排気ガスが、車体の隙間や空調の外気取り入れ口などから車内へ流入することがあります。
「エンジンが動いていて暖房も効いているから大丈夫」と判断するのは危険です。車内が暖かく快適な状態でも、一酸化炭素濃度が上昇する可能性があります。
一酸化炭素は無色・無臭なので気付きにくい
一酸化炭素(CO)の怖いところは、無色・無臭で、人が気付きにくいことです。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと結合しやすく、血液の酸素運搬能力を低下させると説明されています。
初期には頭痛や吐き気などが現れ、その後、意識障害などの重い状態に進むことがあります。就寝中の場合は異変への気付きがさらに遅れるおそれがあるため、エンジンをかけたまま眠らないことが重要です。
- 頭痛
- 吐き気や気分不良
- めまい
- 判断力の低下
- 手足のしびれ
- 意識障害
- 昏睡
JAFの実験では雪に埋まった車内のCO濃度が短時間で上昇
雪で車が埋まった状態がどれほど危険なのかは、JAFが実施したユーザーテストからも確認できます。
JAFは、車を雪で覆った状態でエンジンをかけ、車内の一酸化炭素濃度がどのように変化するかを調べています。
| テスト条件 | 結果の概要 |
|---|---|
| 車をボンネット付近まで雪で覆い、マフラー周辺を除雪しない | 約16分後にCO濃度400ppm、その後約6分で1,000ppmに到達 |
| マフラー周辺を除雪 | 車内のCO濃度はほとんど上昇しなかった |
| マフラー周辺を除雪せず、運転席の窓を約5cm開ける | CO濃度が上昇し、窓開けだけでは十分な対策にならなかった |
この結果から分かるのは、雪で排気経路がふさがれた状態では、短時間でも危険な車内環境になる可能性があるということです。
積雪量や車種、風向き、車両の状態などによって結果は変わるため、「何分までなら安全」と考えるべきではありません。
窓を開ければエンジンをかけっぱなしでも大丈夫とは限らない
雪の日の車中泊でよくある誤解が、「窓を少し開けて換気すれば、エンジンをかけたままでも大丈夫」という考え方です。
しかし、窓開けだけに頼るのは危険です。
窓を5cmほど開けてもCO濃度が上昇した実験がある
JAFのテストでは、マフラー周辺を除雪せずに運転席の窓を約5cm開けた条件でも、一酸化炭素濃度が上昇しています。
風向きや積雪状況によって排気ガスの流れは変化するため、「窓を開けているから一酸化炭素中毒にならない」と考えることはできません。
窓開けは換気手段のひとつではありますが、雪でマフラーがふさがれた状態を解消する代わりにはなりません。
内気循環にしていても安全とは言い切れない
「外気導入をやめて内気循環にすれば排気ガスは入らないのでは」と考える方もいるでしょう。
しかし、車は完全な密閉空間ではありません。JAFも、内気循環にしていても車体の隙間などから排気ガスが車内へ入る危険性があると注意を促しています。
そのため、内気循環を一酸化炭素中毒対策として過信しないことが大切です。
雪の日に車内で寝るならエンジン停止を基本にする
積雪が予想される場所で車中泊をする場合は、就寝するときにエンジンを停止することを基本に考えましょう。
国土交通省の道路関係機関やJAFでも、大雪で車内待機する際には、一酸化炭素中毒への注意が呼びかけられています。
寝袋や毛布などエンジンに頼らない防寒対策を準備する
エンジンを止める場合に問題となるのが寒さです。冬の車内は時間が経過すると外気温に近づいていくため、通常の布団だけでは十分に寒さを防げないことがあります。
冬の車中泊を予定しているなら、あらかじめ低温環境を想定した装備を準備しておくことが重要です。
- 使用環境に合った冬用寝袋
- 毛布
- 厚手の防寒着
- 帽子や手袋、厚手の靴下
- 床からの冷気を防ぐ断熱マット
- 窓からの冷気を減らす断熱対策
- 使い捨てカイロ
- 非常食と飲料水
JAFが厳冬期に実施した車中泊テストでも、エンジン停止後は車内温度が低下しています。一方、冬山用寝袋や毛布と使い捨てカイロを使用した条件では、寒さへの対策に一定の効果が確認されています。
車内で燃焼式の暖房器具を安易に使わない
エンジンを止める代わりに、車内でカセットコンロや炭、燃焼式の暖房器具などを使用する方法も避ける必要があります。
狭い車内で燃料を燃やす器具を使うと、一酸化炭素中毒や火災につながる危険があります。
「エンジンを切れば何を使って暖を取っても安全」という意味ではありません。寝具、防寒着、断熱材など、燃焼を伴わない方法を中心に寒さ対策を考えましょう。
大雪で立ち往生したときに確認したい5つのこと
予定していた車中泊だけでなく、大雪による立ち往生で長時間車内に待機しなければならない場合もあります。
このような状況では一酸化炭素中毒だけでなく、低体温症や凍傷、燃料切れなどにも注意が必要です。
1. 早めに救助を要請する
自力で移動できないと判断した場合は、状況がさらに悪化する前に警察、消防、道路管理者、ロードサービスなどへ救助を求めます。
その際は、道路名、進行方向、近くの施設、標識、キロポストなどを利用して、できるだけ正確な位置を伝えましょう。
2. 吹雪の中でむやみに車から離れない
吹雪で視界が悪い状況では、数メートル移動しただけでも車の位置が分からなくなる可能性があります。
避難できる建物や救助者を確実に確認できる場合などを除き、吹雪の中をむやみに歩き回らないことが重要です。
3. エンジン停止を基本にする
雪が車の周囲へ積もっている状態でエンジンをかけ続けると、マフラーが埋まり、排気ガスが車内へ流入する危険があります。
救助を待つ際も、可能であれば防寒着や毛布などを利用し、エンジンを停止した状態を基本にします。
4. やむを得ずエンジンを使う場合もマフラー周辺を確認する
厳しい寒さなどによって、やむを得ず一時的にエンジンを始動する状況も考えられます。
その場合は、周囲の安全を確保できる範囲でマフラー周辺の雪を取り除き、降雪によって再び埋まっていないか注意する必要があります。
5. 車から出られる状態を確保する
大雪では、車の周囲に積もった雪によってドアが開けられなくなることがあります。
安全に作業できる状況であれば、完全に雪に埋まる前に車の周囲を適宜除雪し、緊急時の脱出口を確保しておくことも大切です。
雪の日の車中泊で備えておきたい装備
雪が降る地域へ車で出掛ける場合は、通常の車中泊用品に加えて、大雪による立ち往生も想定した装備を用意しておくと安心です。
| 装備 | 主な目的 |
|---|---|
| スコップ | マフラー周辺や車の周囲の除雪 |
| 冬用寝袋 | エンジン停止中の防寒 |
| 毛布 | 保温、重ね掛け |
| 防寒着 | 低体温症や凍傷への備え |
| 手袋・長靴 | 雪かきや車外作業時の防寒 |
| 断熱マット | 床面から伝わる冷気を軽減 |
| 非常食・飲料水 | 長時間の立ち往生への備え |
| モバイルバッテリー | スマートフォンによる連絡手段の確保 |
| 懐中電灯 | 夜間の確認や救助時の目印 |
| 一酸化炭素警報器 | COを検知する補助的な安全装備 |
一酸化炭素警報器を用意する場合でも、警報器があることを理由にエンジンをかけたまま眠るのは避けてください。あくまで補助的な安全装備として考える必要があります。
雪の車中泊でよくある危険な思い込み
一酸化炭素中毒を防ぐためには、「これをしているから大丈夫」という思い込みをなくすことも重要です。
| よくある考え方 | 注意点 |
|---|---|
| 窓を少し開ければ大丈夫 | 窓を開けてもCO濃度が上昇したJAFのテストがあり、安全を保証できない |
| 内気循環なら排気ガスは入らない | 車体の隙間などから排気ガスが流入する可能性がある |
| 寝る前にマフラーを除雪したから大丈夫 | 就寝中の降雪で再び埋まる可能性がある |
| 今は雪が降っていないから大丈夫 | 夜間に天候や積雪量が変化する可能性がある |
| 短時間ならエンジンをかけっぱなしでも問題ない | 条件によってCO濃度の上昇速度は異なり、安全な時間を一律には決められない |
一酸化炭素中毒が疑われるときはどうする?
エンジンを使用している車内で、複数人が同時に頭痛や吐き気、めまいなどを感じた場合は、一酸化炭素中毒の可能性も考える必要があります。
周囲の安全を確認したうえでエンジンを停止し、排気ガスから離れて新鮮な空気を確保してください。意識がおかしい、呼び掛けへの反応が弱い、強い頭痛や吐き気があるなどの場合は、速やかに119番へ連絡します。
一方、猛吹雪の中へ無理に飛び出すと遭難や低体温症など別の危険につながります。一酸化炭素への曝露を避けることと、吹雪の中で遭難しないことの両方を考え、救助機関の指示を受けて行動することが大切です。
車中泊の雪とエンジンかけっぱなしでよくある質問
雪が少ししか積もっていなくてもエンジンかけっぱなしは危険ですか?
積雪量だけで安全かどうかを判断することはできません。
重要なのはマフラー周辺や車体の下に雪がどのようにたまっているかです。また、就寝時には雪が少なくても、眠っている間に急激に積雪が増える可能性があります。雪が予想される場所では、エンジンを停止して眠ることを基本にしましょう。
マフラーの周りだけ雪かきすればエンジンをつけて寝ても大丈夫ですか?
就寝中のエンジンかけっぱなしを安全な方法とは考えない方がよいでしょう。
マフラー周辺の除雪は重要な対策ですが、寝ている間に雪が再び積もることがあります。降雪量や風向きも変化するため、除雪したことを理由にエンジンをつけたまま眠るのは避けましょう。
窓を少し開けて寝れば一酸化炭素中毒を防げますか?
窓を少し開けるだけでは十分とはいえません。
JAFのテストでも、マフラー周辺を除雪しない状態では、運転席の窓を約5cm開けてもCO濃度が上昇しました。窓開けだけを一酸化炭素中毒対策として頼らないようにしてください。
内気循環なら安全ですか?
内気循環でも安全とは限りません。
車体は完全に密閉されているわけではないため、排気ガスが隙間などから入り込む可能性があります。空調設定だけで一酸化炭素中毒を防げると考えないことが重要です。
寒すぎてエンジンを切れない場合はどうすればいいですか?
まずは寝袋、毛布、防寒着、カイロなどを利用して、エンジンに頼らない保温を優先します。
立ち往生などでやむを得ず暖房を使用する必要がある場合は、周囲の安全を確認できる範囲でマフラー周辺が雪で埋まっていないか確認し、救助を要請してください。エンジンをかけたまま眠ることは避けましょう。
電気自動車なら雪に埋まっても一酸化炭素中毒になりませんか?
走行用モーターだけで動く電気自動車は、ガソリン車のようにエンジンから排気ガスを出さないため、同じ仕組みによる一酸化炭素中毒の危険はありません。
ただし、雪に埋まればドアが開かなくなる、車両を移動できなくなる、バッテリー残量が低下すると暖房を使用できなくなるなど別の危険があります。電気自動車でもスコップや防寒具などの冬装備は必要です。
雪の車中泊ではエンジンを止めて眠れる準備をしておこう
雪の日の車中泊でエンジンをかけっぱなしにする最大の危険は、一酸化炭素中毒です。マフラーが雪でふさがれると排気ガスが車内へ流入する可能性があり、一酸化炭素は無色・無臭なので異変に気付きにくいという特徴があります。
JAFのテストでは、雪に埋まった車で対策をしなかった場合、車内のCO濃度が短時間で大きく上昇しています。また、窓を少し開けるだけでは十分な対策にならないことも確認されています。
冬の車中泊は「エンジンをかけて暖を取る」前提ではなく、「エンジンを止めても寒さをしのげる」装備を準備することが重要です。冬用寝袋や毛布、防寒着、断熱マット、スコップ、非常食などを備え、大雪が予想される場合は無理に車中泊や移動をしない判断も安全対策のひとつです。

